前田康輔さんがマネージャーを務めるスポーツを通した次世代リーダー育成や国際交流プログラム、地域コミュニティ創出を目的とした社団法人LINKtheSKY
遠隔で前田康輔さんのスイムコーチングが受けられるサービス「スマートコーチ

競技経歴を振り返る

3歳から水泳を始め、今もなお泳ぎ続けている前田康輔さん。水泳を始めたきっかけは二卵性双生児で未熟児として生まれたことにより、兄弟揃って気管が弱かったことからご両親が身体が強くなるようにと習わせてくれたのがきっかけ。
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兄と二人、楽しく始めた水泳も小学校一年生の頃には選手コースへ、初めての全国大会は小学校3年生の頃に出場したJOC(ジュニアオリンピックカップ)と、すぐにその頭角を表した。全国大会で華麗な結果を出し続け、大学は競泳界の名門である中央大学へと進む。大学間での全国大会インカレで優勝するなど、日本一を経験し、社会人に。仕事をしながらもマスターズ(社会人水泳)の大会で日本記録を13個、世界記録を2個保持しているトップスイマー。

現在はフリーランスで活動しており、トライアスロンの大人向けスイムスクールのコーチを担当し多くの顧客を抱える傍ら、復興支援財団からの被災地支援プロジェクトの一環で被災地に子供達への水泳指導、海外のジュニア水泳チームへの指導も行っている。

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東北「夢」応援プログラムにて

クロストレーニングのメリット

本来スイマーはプールサイドできる補強トレーニングやウエイトトレーニングを行なっている選手がほとんどだが、前田さんはランニングやサイクリングなど陸上での有酸素トレーニングを取り入れることで結果を出してきた。クロストレーニングに行き着いた経緯は、下半身強化のために別のアプローチをしたいと考え、大学在学時にトレーニングの一環で陸上トラックで走り始めたのがきっかけだった。

毎日欠かさないストレッチで関節のしなやかさは十分に備わっていたが、練習でもレースでも激しくキックを打ち続ける下半身は乳酸が溜まりやすい。陸上とは違い、常に呼吸ができる環境ではない水中だからなおさらだ。耐乳酸、筋持久力向上のためにできることはすべてやろうと考えた前田さんは、毎日寮からプールまでの道のりをクロスバイクで移動することを取り入れる。泳ぐ前も、泳いだ後も、日々の練習で疲れた身体をさらに酷使する。

また、昨年まではリオオリンピックを目指して実業団にも所属していた。大学の恩師に依頼して水中撮影をした動画分析を用いたりなど、科学的な視点からも自分の泳ぎを分析。社会人ながらも自らの記録を更新するために柔軟性を持ってトレーニングに取り組んでいたという。

現在はトライアスロンのスイムコーチとして活動しているため、スイマーを軸として積極的にバイクとランニングのトレーニングに励んでいるが、そこで大きな気づきがあった。

「スイマーの身体は程よく脂肪がのっているのですが、それが絞れてきましたね。また、バイクトレーニングをしていると水泳のキックと同じように腸腰筋から足を動かすという動作の繰り返しで、キックの力が高まりました!全然スイム練習をしていないのに、タイムが落ちていないし泳いでいても調子がいいのがわかるんです(笑)」
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水泳の指導をする際に、バイクとランニングと紐付けてアドバイスをしたいという理由から始めたトレーニングがスイマーとしての自身のパフォーマンスにも良い影響をもたらしている。さらに、指導している選手のフィジカルやメンタルを理解するために、今年は8月の沼津千本浜トライアスロン大会でトライアスロンデビューを控えている。

何か一つの種目に捉われるのではなく、多岐に渡る視点を持ってパフォーマンス向上に臨んでいた前田さん。学生時代も社会人になってからもチームメイトがいたが、どんな時も一人で納得感のある練習を積み重ねることを重要視していたそう。

他の選手がどんな練習をやっていようが、自分の状態は自分にしか理解できない。水中だけのアプローチに限らず、その状態に見合ったトレーニングを選択できるようにと、バイク以外にもランニングやヨガ、ピラティス、ウエイトトレーニングなどを実践。

限られた時間の中で結果を出すための環境を整備して、自分に必要なものを見極めて試しては削ぎ落とすという作業の繰り返していた。

だからこそ、前人未到の輝かしい結果を手に入れることができたのだが、一つのことに捉われずに良いと感じたことを素直に取り入れ、試行錯誤するその柔軟性は、多くのスポーツ愛好家の参考になるのではないだろうか。

競技と仕事を両立することの価値とは

「オリンピックに出たい。メダルを獲りたい」

日本の3大人気スポーツで頂点を極めた選手をたくさん見てきた。無論、自身もそこを目指せる実力を持っていたからだ。しかし、現役を引退した後のセカンドキャリアをうまく確立できている人は多いとは言い難く、前田さん自身もはじめはそうだったという。

「引退してからは企業に就職せず、フリーランスのインストラクターとして活動していました。スポーツクラブと契約もして、レッスンも数多く受け持っており、それなりに仕事になっていました。でも、自分自身の中でどこか納得がいってなくて。本気で心を燃やしてやってきた水泳という財産をこのレベルで終わらせていいのかとずっと考えていましたね」

それならば、社会に通用する人材になるために一度サラリーマンを経験して自分を鍛え直そうと考え、就職。そこで会社の社長に水泳の実業団チームを作ってほしいと掛け合い、もう一度競技ができる環境を整えた。そうはいっても、学生のように練習にだけ打ち込める環境でもなければ、ナショナルチームメンバーのように優秀なスタッフのもとマネジメントされているわけでもない。

フィジカルもメンタルも自分で鍛え上げ、闘える状態で飛込み台に立つということ。それは決して安易なことではなく、辛く苦しいことも多かったという。それでも、後0.8秒縮まればオリンピックへの切符が手に入るレベルにまで到達したが、あえなくその夢は破れた。

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「仕事をしながら競技をする大変さを実感しながらも、すべてを自分で管理してコントロールできるという自由さが心地よかったのも事実です。社会人になって仕事への責任があるから、自分のやりたいことを諦めてしまうのは本当にもったいない。そこも既存の選択肢だけではなく、頑張れる環境を自ら作り、目標にチャレンジし続けるという豊かさを体現したかったんです。

今でもその時の仲間が実業団で選手を続けていて活躍してくれていますし、そこで出会えた仲間は宝物。心から頑張ってほしいと思いますね」

アスリートのセカンドキャリアは現代の日本において課題に感じている方はたくさんいるだろう。しかし、前田さんのように自分で道を切り拓いて選手活動をしていた例もあれば、より結果が出せる競技種目に変えて、日々鍛錬している人もいる。大学を卒業し、その環境から離れたからといって、決して自分のやりたいことを諦めてほしくないという強い思いは、後輩や次世代選手たちへの強い希望となるだろう。

今後の展望

「トライアスロン界に足を踏み入れて思ったのは、皆さん仕事をしながらトライアスロンをされている方がほとんどだということ。楽しんでいる方もいれば、競技として日本選手権や世界選手権に出場されている方もいます。それがフルタイムワーカーだったりするので、驚きですよね。自己管理やタイムマネジメントの上手さは本当に勉強になります。

そういった方々が、より高効率にトレーニングするためにやはり優秀なコーチは欠かせないと思っています。一回一回の練習で少しでも前進し、それを積み上げていく質の高いトレーニングを提供したい。また、競泳と同じように大学を卒業してプロのトライアスリートとして活動している選手もいるので、レベルの高いエリート選手たちと可能な限り一緒に練習する時間を作りたいですね。同じ経験をしてきたからこそメンタルも理解できると思いますし、彼らの目標をサポートすべくいかに環境づくりをするかを考えています」

3歳から28歳になった現在まで長きにわたり続けてきた水泳は、前田さんの人生そのもの。長く継続してきたからこそ見える視界があり、人に教えられるスキルがある。それを次世代で世界を目指すジュニアスイマーや、トライアスリートたちに伝えたいと語ってくれた。

また、前田さん自身も生涯現役のスイマーとしてやっていきたいと語る。来年には自身が保持している記録の期限が切れるため、また専門種目をメインに記録を塗り替えるべくスイマーとしての練習の日々が始まる。