ヨガの世界は
呼吸を意識する

Pearl Izumi(以下PI):私たちのウエブサイトに来てくださる方は、自転車にはある程度詳しくても、ヨガの世界は素人という方が大半だと思います。なんとなく「ヨガってストレッチと似ていそう」と感じるのですが、結構違うものなのでしょうか?

福田弥生(以下、福田):ヨガとストレッチの違いはよく聞かれます。大きな違いは呼吸です。ストレッチは身体を伸ばして筋肉をほぐすものですが、ヨガはそのときに常に呼吸を意識するのが特徴です。ただ伸ばすだけではなく、呼吸に意識を向ける事で、その時に起きている身体の変化に気づくことがヨガであり、過去未来、後悔不安が交錯する頭の中の荒波を沈め、意識を内側に向けていく事で、集中力が高まっていきます。

福田弥生

PI:なるほど。僕らはライド後に身体の各部をストレッチしますが、それは身体を部分的にケアするだけであって、精神的な何かを得ようとはしていません。ヨガとストレッチは身体の柔軟性が高くなるところは共通しているかもしれないけれど、アプローチの手法が違うのですね。

福田:ストレッチでも、呼吸の指示と共に行うことがあるかもしれませんが、それは形ありきの呼吸という捉え方かもしれません。ヨガでは、呼吸に誘導されながらポーズを取ると考えるとわかりやすいと思います。

PI:ところで、“PI RIDE”のときに先生からクールダウンのヨガという話がありました。「よければ、ゆったりしたヨガをやってみましょう」と。その理由は?

福田:自転車乗りの方は日ごろからアクティブな方が多く、休日、家にいることは少ないと思っていました。疲れているときは、自分の身体ににムチを打ってハードな運動を課すのではなく、時にはヨガをやって家でゴロゴロすることがあっても良いんじゃないかなって。「週末は絶対に運動しなきゃダメだ……」と思ってしまう、固定概念を少しでも変えるお手伝いができればと提案しました。

PI:ゆったりとしたヨガとはどんなものですか?

福田:代表的なものは、リストラティブヨガと呼ばれるものです。ヨガプロップス(ヨガのポーズを無理なく取るための補助道具)を使って横たわり、そのまま5~10分ゆったりとしたポーズでキープし、リラックス状態を高めていきます。脳と身体を休められる人気の高いヨガです。

もうひとつは、インドで昔から行われているヨガニードラというものです。
どのレッスンでも、必ず最後には約1割の時間をシャバーサナ(屍のポーズ)というポーズにあて、横になり、心と身体を沈める時間を取るのですが、ヨガニードラではシャバーサナを取りながら、インストラクターが指示する全身の各部分(手の指先や口の中、頭など)に意識を向け、誘導されながら意識を内側に向け、瞑想状態に導くとても効果的なリラックス方法です。

シャバーサナはヨガの醍醐味でもあります。

PI:寝ていることが醍醐味というのは、なんとも不思議ですね。

福田:動いた後のシャバーサナで、全身巡ったものを沈めるのはとても大切な時間なんです。
ニードラで身体を休めながら意識をクリアに保っていると、インストラクターの言葉がアタマの中にスッと入ってくるようになります。そのときの脳波は眠る寸前を行ったり来たりしているといわれています。意識を身体に向ける事で、心の暴走が止み、無に近づいて行きます。いざ瞑想をしようと思うとどうしても雑念がアタマの中に飛び込んできがちですが、インストラクターの誘導があると集中しやすく、こちらも初めての方にもとてもオススメです。

福田弥生

PI:気持ちの切り替えというのはなかなか上手くいかないものですが、ヨガを取り入れると変わるというのは魅力的ですね。

福田:交感神経と副交感神経のバランスが整っていきます。最近はスポーツ選手でもヨガを取り入れている方が多く、試合中は気持ちを昂らせつつも、どこか落ち着いている自分がいる、そんなゾーンに入った状態を生み出すのにヨガは大変有効です。いつも何かがアタマの中に駆け巡っているような方は、1日5分静かに目を閉じ、呼吸に意識を向けてみる、そんな時間を作ってみるといいと思います。

PI:ヨガって入口は意外ととっつきやすいものなのですね。これまで「ヨガ=修行=神秘なる宇宙の世界」というような妄想があって、もっとハードなものと思っていました。

福田:最初から宇宙の話になるとみなさんにドン引きされちゃいそうです。ただ、そちらがお望みならありますよ(笑)。ヨガはもともと男性がするもので、瞑想をする時に、同じ姿勢を保つための強い身体を作るためのものでした。

ハードで運動量が多い代表的なものではアシュタンガヴィンヤサヨガというものもあります。一連の動きを呼吸とともに1時間から2時間かけて休みなく行います。続けていると、腹筋や体幹が強くなり身体が鍛えられるだけではなく、毎日同じ動きをすることで、自身への気づきも深まります。動く瞑想ともいわれています。

福田弥生

PI:リストラティブヨガやヨガニードラを身体にやさしいエクササイズとしたら、アシュタンガヴィンヤサヨガはアスリート的な感じですね。先生はそういったヨガも取り組むのですか?

福田:自身の練習では取り入れています。

教室でも、生徒のママさんたちから「今日は動きたい!」という希望があれば行うこともあります。とはいえ、そんなにガシガシやらなくても……というのが正直なトコロです。多くの方は運動不足解消やダイエットという目的で教室にいらっしゃいますが、ゆったりした呼吸と共に身体を動かし、心を落ち着かせ、思考が少しでも変わると、身体は変わってくるからです。実際に私自身もそういった経験があります。

ヨガとトライアスロンは
親和性が高い(!?)

PI:自転車やランニングは生涯スポーツといわれています。これは身体に大きな負担をかけずに行えば身体はずっと動き、それが健康につながるからです。先生の話を聞いているとヨガもそれに近い気がしてきました。のんびり楽しくがリストラティブヨガやヨガニードラ、強度が高いキツメのロング走がアシュタンガヴィンヤサヨガかな。

福田弥生

先生がヨガに出会ったのはいつごろでしょうか?

福田:13年前ですね。妊娠したときにマタニティヨガを始めたのがきっかけでした。これまで3人の子を助産院で生んでいて、どの子のときも楽しい妊娠生活を送ることができました。「陣痛がつらい」と話す方は多いですけど、私は陣痛を「陣痛さん」と呼んでいて、「いつ来るのだろう。いつ会えるのだろう。どんな感じなのだろう」と楽しみにしていました。

PI:「陣痛が楽しみ」というのは変わっていますね(笑)

福田:ひとつは毎週やっていたマタニティヨガのおかげだったと思います。

PI:マタニティヨガとはどんなものですか?

福田:身体に過度の負担をかけない範囲で筋肉を緩め、腰痛を防ぐような動きを行うヨガです。1時間のレッスンのうち3回はシャバーサナのような休むポーズが入っていたので気持ちが非常にリラックスできました。これがお腹の赤ちゃんと向き合えるいい時間になっていました。
それに産婦人科医の九嶋先生の温かい人柄と素敵な詩も教えていただいたことで不安がなくなりました

PI:どんな詩なのですか?

福田:主役は子宮で「私は子宮です」という一文から始まり、みなさんがイヤな目でみる陣痛は私たちの助けになってくれる仲間です。一緒に協力して赤ちゃんを産みましょう――というような内容でした。先述した「陣痛さん」という言葉もそこにあって、「なるほど」と感心しました。

PI:マタニティヨガと詩は、先生にとってとてもいい出会いだったんですね。そして、そのときの経験が、ヨガをみなさんに伝えたいという思いになった、と。

福田:そうですね。実はその後、マタニティヨガの資格を取るために協会の講習会を受けたとき、テキストを見たら九嶋先生の詩があって驚きました。人生ってどこかでつながっているかわからないものですね。教室のママさんたちにも朗読しました。

福田弥生

PI:何か縁を感じますね。
そういえば、先ほど自転車やマラソンとヨガは似ているかもと話しましたが、先生はどう思いますか?

福田:私は最初、自転車乗りの方は長い距離を走ると聞いていたので、「走っているときに気持ちが集中しないですか」とお聞きしたことがあります。ただ、ロードバイクは結構なスピードを出してクルマや歩行者に神経がいくのであまりない、と。

PI:目線だけ右へ左へキョロキョロと動いています(笑)。ではランニングはどうですか?

福田:主人がランニングを趣味でやっていて、「走っていると思考がクリアになる、ガチャガチャした気持ちが落ち着く」と話しています。ヨガの瞑想は座禅を組んで静かにジッとしていますが、ランニング中も身体は動いていても、わりと座禅に近い心持ちになるのではないかな、と。

PI:確かにランニングは無心になる時間があると思います。

福田:あとヨガは勝ち負けではないので、そのあたりはスポーツと違う感じです。

PI:そうしたらトライアスロンはどうでしょう。トライアスロンも競技ですが、ロングの世界では「ゴール(完走)した人はみんな勝者」というような考え方があります。タイムは自分がよくできたか、そうでないかの指標にするぐらいで、あまり人と比べることをしません。

福田弥生

福田:みんなでたたえ合うというのはいい世界ですね。

ヨガスタジオに初めてくる方は「あの人の身体がやわらかいとか」「私がいちばんできないダメな子かも」と、最初は周りをすごく気にしてしまいます。それが気にならなくなったときに自分に集中がいくようになるので、人と比べないというのは精神世界が似ているかもしれないです。

PI:みなさん、10時間以上も身体を動かしていると、はじめは何か考えていても自然と無心になって没頭してくると話します。

福田:すごいですね(笑)。私は学生のころ美術部で運動はまったくしていなかったので。

PI:ガシガシしたヨガにも取り組むいまの姿とは対照的ですね。

福田:運動は水泳ぐらいです。大西勇輝さん(パールイズミのブランドアンバサダー)には「自転車乗らないの?」っていわれたことがあります。

PI:乗ったら速そうです。

福田:ロードバイクは、あの前かがみの姿勢が落ち着かなくて……。だからママチャリです。結構ヤル気があるときは電動アシストを切って、「腸腰筋を使って漕ごう」「お腹に力をいれて走れば腹筋も使えるかな」とかやっています。

PI:結構なアスリート魂を確実にもっていらっしゃると思いますが。

福田:とんでもないです(笑)

PI:最後に今後の活動や将来の夢は?

福田:いまは、地元のママさんたちがずっと通ってくれるヨガ教室を続けることです。ヨガの学びは一生といいますが、学び続けていても本当に終わりは見えません。「身近な人をちょっとでも幸せに」、そんな時間を多く作ることができればいいなと考えています。

PI:ありがとうございました。

福田弥生