『人生(ライフスタイル)の大きな転換は目の前に突然現れるものではなく、日々の小さな積み重ねで出会う』。開発者は自身の生活の中でウエアに対する小さな気づき(新しい発見)をもとに、新しいウエアの創造に挑んでいる。このコンセプトをもとに着る場所を選ばない細身のシルエット、アースカラーにシンプルなデザイン、これまでにパールイズミが 培ってきた技術全てを注ぎ込んだ高機能サイクルウエアが誕生した。 そのPIGLシーズン2の発売を記念し、“NEW DISCOVERY”というコンセプトを軸にしたトークショーをサイクルショップとカフェの融合施設であるTREX虎ノ門にて開催。 会場には50人ほどのトライアスリート、サイクリスト、媒体関係者が集結し、登壇者のトークとカフェスペースで振舞われた食事やお酒を楽しんだ。 PI TALK 今回トークショーに登壇したメンバーは、日頃からパールイズミのサイクルジャージやトライスーツを練習やレースで愛用し、ブランドの成長や変化にダイレクトに携わっている PI TRI というトライアスロンチームのメンバー。 このプロジェクトの発起人であるパールイズミPR担当の清水さん、同じくパールイズミでパタンナーを務める巽さん、パールイズミアンバサダーの大西さんと北川さん、 そしてPI TRIで専属スイムコーチを務める前田康輔さんの個性豊かなライフスタイルを送る5人。 全く違う職業の彼らがトライアスロンを通じて出会い、練習や合宿を共にし、昨年は佐渡トライアスロン、今年は宮古島トライアスロンに参戦。”波長が合う”という言葉以外の表現方法が見つからないこの稀有なコミュニティを通じて感じること、新たに得た気付きが語られる。 トークをリードするのはアンバサダーの大西さん。「素人だらけ、身内だらけのトークショーへようこそ!」という親近感溢れる一言でスタートを切ったトークショーの冒頭では、今春からスタートしたプロジェクト“PIGL”について清水さんから説明された。 PI TALK 「PIGLとはパールイズミガーメントラボのことで、ガーメントとは衣服という意味。パールイズミが生み出す斬新なエンデュランスウエアを実験する研究機関のようなものとして捉えてます。 「シンプルで快適、かつ機能的なサイクルウエアやトライスーツを開発したいと思い、このプロジェクトを立ち上げました。僕自身は入社したのは2016年。それまではIT企業に勤めていてサイクル業界についての知識はほぼ皆無だったのですが、入社して業界のことを学んでいるうちに、サイクル業界は以前と比べて変わりつつあるのかもしれない、という感覚を持ちました。 PI TALK 自転車と一言で言っても、 ロードバイク、TTバイク、街乗り用のクロスバイク、マウンテンバイクなど様々なバイクがあります。先日アメリカ出張に行った際にアメリカで一番乗られているのはマウンテンバイクだということも知り、以前はマーケットになかったグラベル、つまりロードとマウンテンの間の子みたいなものも誕生して、自転車の楽しみ方がより多様化しているんだな、 と。 また、その楽しみ方の多様化に合わせて自転車に乗る人たちがウエアに求めるものも同時に変わってきているのではないかとも感じていたのです。 要は、生地の伸縮性、撥水性やパッドの形状といった機能面だけではなく、自転車に乗る中で想定されるいろんなシーンで、自分が「このウエア、いいな!」といったエモーショナル(感情)の部分でも波長が合うウエアが求められている。 競技として自転車に乗っている人にも満足してもらいながら、自転車に乗っている時間を楽しく、スタイリッシュに過ごす人たちからも求められるもの。 そういった変化の中で、僕たちが提案できるウエアはどんなものだろうと考えて、プロジェクトをスタートさせたのがきっかけです。機能性だけではなく、感情に訴えかけられるウエアとはどんなものだろうと考えたときに、約40年間ウエア作りをしているブランドとして蓄積されたノウハウや知見をベースに、5つの視点から考えました。 それがシルエット、ディテール、ファブリック、カラー、そしてテクノロジーです。この5つの視点から理想を見いだすことが、新たなニーズに応えられるウエア開発を実現できるのではないかと考えてます」 PI TALK そしてそのシーズン2のコンセプトになっている“NEW DISCOVERY”について、清水さんはこう語る。 「今日ここには来ていないのですが、うちには勤続年数20年ほどの超ベテランのウエア開発者がいます。彼はずっと物作りをしているので、アパレル関連のショップに陳列されている服、周囲の人が着ている少し変わった服をみる度に、その生地の素材や伸縮性を衝動的にチェックしたくなるという面白い職業病を持っているんですね。 我々は春夏と秋冬でウエアを作るのですが、製造工程の中でウエアの生地が自分が描いていたように仕上がっていない、といった予期せぬことが起きるんです。そうすると彼は夜中に突然仕事のことで寝言で口にすることがあるそうで(笑)。企画者である僕からすると、物作りをするという立場の彼がウエアを生み出す時、24時間そのことが頭から離れず常に対面し続けているということにプロ意識を覚えました。 そこから僕も、より良いウエアを世の中に発信することについて、見る、触れる、考えるという小さな経験の積み重ねをどんどん蓄積させ、ノートに書き留めるようになったんです。その大量に書き留めたアイディアを後々振り返ると、良いアイディアの種だったりするから面白い。 強制的にアイディアを頭から絞り出すのではなく、日々の何気ないシーンの中で頭に浮かんだこと、閃いたこと、点と点を線に繋げ合わせてアイディアを生み出すという方法が、 気に入ってます。 例えば、今日ここにいる自転車という共通項を持った皆さん全員で醸し出しているこの雰囲気って、リラックスできていて心地よい雰囲気だと思うのですが、こういう雰囲気こそ良いアイディアを生み出すための最高の空気感だと僕は思っていて。 自転車に乗るときも、これからやるぞ!追い込むぞ!と意気込むのではなく、この場の雰囲気のようないい感じで力が抜けたフラットな状態で自転車を楽しみたいことに改めて気が付きました。10年前に自転車に乗り始めた当初の僕のスタイルといえば、通販で購入した3万円くらいの自転車に、サイクルウエアではなくTシャツに短パンという格好でした。その時の気持ちを思い出すと、気負いは一切なく、時間が空いたら自転車に乗るというような気楽な気持ちでいつも自転車と触れ合っていたんですよね。 PI TALK それからトライアスロンを始めるようになり、今では13時間ほどかけてロングディスタンスのレースを完走できるようになり、自転車との関わり方も変わりました。でも楽しさ、気楽さは忘れたくない。10年前の気楽な感覚と今のステップアップした感覚を両存させた時に、果たしてどんなウエアがマッチするだろうと考え始めたことも新しい気付きの一つです。PIGLをシリーズ化した根幹の思いでもあります」 このPIGLのウエアを目にした参加者たちは、口々に「興味がある。着てみたい」と言う。 もともとパールイズミの製品を愛用しており、その質や着心地の良さは体感済み。だが、このPIGLシリーズの細身で洗練されたシルエット、デザインに加え、日本最古のサイクルウエアメーカーとして培ってきたテクノロジーを目の当たりにし、ウエアを通し新たな感情へ働きかけられたと言えるのではないだろうか。 PIGLのコンセプト紹介が終わったところで大西さんから各登壇者の紹介があり、各登壇者による宮古島トライアスロンに付随したNEW DISCOVERYが語られ始める。トップバッターはパタンナーを務める巽さん。このトークショーのすぐ後にロング ディスタンスの世界選手権を控えているトライアスリートだ。 PI TALK 「初めまして、パタンナーをしている巽と申します。パタンナーとは服の製図を描く人のことで、私はレディースのサイクルウエアとトライスーツを担当しています。 間もなく世界戦に出場するという話を耳にされて、皆さんは私が生粋のアスリートだと思っていらっしゃるかもしれませんが、実は30歳まで運動を一切したことがない人間でした。 世界的に有名なファッションデザイナーになるという夢を実現させるためにロンドンに留学し、ずっとデザインの勉強に明け暮れていましたが、アパレル会社でのパタンナーの仕事をしているときにランニングに出会い、マラソンを始めたのがスポーツをするきっかけです。 そこからスポーツウエアの会社で働いて見たいという気持ちが芽生え、ご縁あって今に至ります。ランニングから派生して始めたトライアスロンも、怪我や故障なく努力をし続けられた結果が形となって現れ、全く運動していなかった数年前とは比較にならないくらい日々が変わりました。あれほど運動音痴だと自分で認識していたのに、興味を持ってやってみたらできちゃった!みたいな(笑)。これが私にとってのとても大きなNEW DISCOVERYです。 もちろん今でも球技はすごく苦手ですし、瞬発系のスポーツは向いておらず、圧倒的に持久系スポーツが向いているとは思うのですが、自分に合ったスポーツを見つけられたことで本当に人生が変わりました。転職もして、トライアスロンを始めた ことで出会えたたくさんの仲間、PI TRI というコミュニティに属することで得られる刺激 や感動、楽しさの数々。 トライアスロンを始めたばかりの4年前は一人でレースに行っていたし、昨年宮古島に出場したときは抽選で一緒に出られる仲間がいなかったので、今年の 宮古島はPI TRIのメンバーで行けてすごく楽しかったですね! 30歳を過ぎてやっと自分が輝ける術が何なのかを見つけられたのは、興味を持ったら臆せずにやってみたからだと思います。 どんなことにも必ず一つは楽しさがあると思うし、私はトライアスロンで表彰台に立てたらどんなに楽しいだろう!という目標を掲げられたこ とが原動力になりました。その目標が達成できたことでもっともっと頑張ろうと思えています。 PI TALK これからトライアスロンを続けていく上で何がゴールなのかは考えていませんが、 さらにステップアップした目標としてIRONMANレースに出場し、KONA世界選手権というロングディスタンスの世界最高峰レースの権利を獲得したい。そのために日々の練習やトライアスロンの知識をインプットすることで毎日が充実していますし、それがウエア作りに反映できるので仕事も楽しさが増していますね。そして、パールイズミのサイクルウエアを着てくださる皆さんに満足していただければ嬉しいと思っています」 巽さんが纏う強くポジティブな空気感は、彼女が持つ芯の強さの現れがもしれないが、一人のトライアスリートとして刺激的な日々を送っているからこそ放たれるオーラなのかもしれない。   vol.30に続く