PI TALK 「実は、応援のためだけにレースに行くというのは初めてでした。しかもロングディスタンス。自分が経験したことのない過酷な距離なので、このカテゴリーで戦っている人たちを内心いつも尊敬しています。宮古島では現地入りした時からレース当日に向けて高揚感が伝わってきて、出場選手以上に緊張していました(笑) 。 それぞれの目標タイムと共に、これまでの練習内容もだいたい把握していたので、タイムや順位を狙いにいっている人、絶対に完走したいと思っている人。仲間の心情を常に考えながら側にいたように思います。レース中は苦しいだろうなと想像する場面でなるべく声をかけようと、チームメイトがどのパートをどれくらいのタイムで通過するか、という予測タイムが記入されたシートと、WEBで見るトラッキングタイムをリアルタイムに確認しながらいろんなポイントを転々としました。 よくロングのレースにトラブルはつきもの、と言いますが、今回チームメイトにもそれぞれドラマがあり、一番心に残っているのがユウキのレース展開です。 彼は100位以内を目指して練習を積み、しっかり数値化された目標を持って挑んでいたので、他のメンバーに比べて安心して見ていられる存在だったんです。スイムは予想タイムより早く上がり、バイクもタイムを短縮したのを確認して、ランコースの5km地点で声をかけました。「いい感じだよ、頑張れ!」と言ったのに対して「足が辛い」と言いながらもいつもの爽やかな笑顔。その後25km地点あたりの応援が少ないポイントで待っていたのですが、待っても待っても姿が見えない。トラッキングタイムも更新されない。どんどん心配になってきて、補給食が足りていなかったらどうしよう、と私設エイドの方から食べ物をかき集め、待ってたんです」 PI TALK 「そうしたら、なんと先にその地点を通過したのが巽さんで。巽さんもロングは慣れているから安心できる存在の一人だったのですが、さすがにユウキより早くこの地点に来るとは思っていなくて。巽さんを激励しつつもユウキの様子を聞くと、抜かしたよー!と。巽さんが元気なのは何よりなのですが、さらに不安が募ったんですね。とはいえ信じて待つしかない。そして、やっと見えたユウキの姿は決して元気なものではありませんでした。見てわかるんです、頭も気持ちは元気なのに身体がもう動かないっていう時の動作。その時に、ユウキが仕事の合間を縫って練習を積んできたこと、いつもみんなを笑顔で優しくまとめてくれること、私たちにとって縁の下の力持ちみたいな人であること。 そんなことが頭の中に一気に湧いてきて、過ぎ去っていくユウキの背中を見て思わず涙が出てしまいました。あ、ちなみにかき集めた補給食は受け取ってさえもらえませんでした(笑)」 PI TALK 「トライアスロンって、個人競技だけど練習はチームや仲間とされている方が多いと思います。普段の生活や仕事や家庭の状況など、それぞれの基盤をもとに努力し楽しんでいる。それを深く知れば知るほど、レースの応援に力が入るというか。綺麗な言い方かもしれないですが、今回の宮古島にでたメンバー全員を“心で”応援していたと思います。それぞれからたくさんの感動をもらいましたね。そういう心が震える瞬間をチームメンバーと共有できたことが、かけがえのない幸せな体験になりました。人生でこういう気持ちになれることって、何度あるんだろうと思えるくらい」 僕のエピソード恥ずかしいです、と大西さんからの相槌が入りながら、北川さんへの新たな質問。「トライアスロンを始めてすぐにエリートレースを転戦したり日本選手権にも出たりと、まりなのことをアスリートという印象を持っている人が多いと思うのだけど、PI TRIが始動し始めたここ一年半くらいで良い意味でリラックスしてトライアスロンを楽しんでいる感じがすごくするよ。最近調子はどう?」 北川さんが答える。 「実は二ヶ月前に足首の靭帯を断裂してしまって、長らく走れずにいます。怪我をした時って、一切の練習をやめて早期回復を目指すか、他の種目で少し無理をしながらも時間をかけて治すか、どちらかの選択をすると思うのですが、今回すぐ治るだろうと甘く見ていたこともあり、できる範囲で練習していたんです。でも、いつまで立っても痛みが引かない。さらに有痛性外脛骨という足の内側の骨が出っ張る症状も併発して、歩くのも辛い毎日」 PI TALK 「その時に、いつも筋トレで通っているジムのオーナーさんから、最近来ないけどどうしたの、と連絡をいただいて。状況を説明すると、素晴らしいトレーナーがいるから一度診せにきなさい、と言ってくださり、すぐに会いに行きました。治療をしていただきながら、普段自覚している身体や動きの癖をトレーナーの方と話していました。その時に、私の弱点やもっと効率よく動く体を手に入れるためのストレッチや筋トレを提案してくださって。怪我を治すことはもちろんなのですが、身体の使い方を変えることでより楽により速く走れるイメージがすごく湧いてきたんです。 実際に治療が終わって動いてみると、すごく感覚がいい。気分が高揚したのを覚えています。怪我をしたことは残念なことですが、それによって現状を見直すことができた。怪我をすることは決して悪いことではなく、誰の身にも起きること。そこから視点を変えてどう次に繋げるか、ポジティブに取り組むことの大切さに気付かせてもらえて、悶々とした気分が一気に晴れました。きっとこれから先怪我をしたとしても、冷静に向き合って解決できる思考でいられるでしょうし、この頭の切り替え方法を学べたことがすごく財産になりました。もし怪我や故障で苦しんでいる人がいたら、ぜひ私の体験談をお話したいですね」 トライアスリートとしてのレベルは関係なく、多様な価値観を受け止めてこれから多くの人とトライアスロンを楽しみたいと語る北川さん。選手思考でやっていた時とは違い、PI TRIから学んだ柔らかい姿勢のまま、彼女らしいトライアスロンライフを送ってくれるのが楽しみだ。 次は今回のプロジェクトの発起人である清水さん。彼が考える世界観にPI TRIのメンバーはすっかり魅了されているが、彼の持つ視点からの新しい気づきを聞く。 PI TALK 「全くの他業種からパールイズミに入社して、わからないことが多いなりにたくさんのクエスチョンを持っていました。そして、周りには業界に詳しい人が本当に多い。その中で、自分が出せるバリューはどんなものなのだろう?と考えていたんです。 その中でも特に素朴な疑問があって、なぜ日常と自転車に乗る時の感覚はこんなに断絶的なのだろう?とか、着用するものが個性的すぎで、なぜもっとその人のパーソナリティを引き出すような控えめなものがないんだろう?とか。 でもそれって素人の思考なのか、それとも業界に染まっていないから発想できることなのか全然わからなかった。同時に何かしらのイノベーションを起こせたらいいなと思っていたんです。 僕は若い頃にフリーランスのカメラマンをしていたことがあり、作品集を作って編集者に売り込みに行ったことがあったのですが、その時に編集者の人に言われた言葉があったんです。一体君は今まで何万枚の写真を目にしてきたのか?と。浴びるくらい見て、たくさん頭の中に良い写真をストックしなさいと言われて。 スポーツウエアに限らず、建築とか何かを生み出す時に、情報を大量に自分の中にストックすることが大切だと思い出して、それをやり始めたんです。そのうちに、少しずつ自分の考えは世の中に受け入れられるのかもしれないというわずかな確証めいたものが生まれ始め、周囲にも僕の考えを理論立てて説明できるようになりました。 そしてアンバサダー二人とするたわいもない会話の中での発見に、大きな影響がありましたね。 PIGLは具体的に誰のためのウエアという意識はしていなかったのですが、強いて言えばこの二人のために何かを仕掛けたいと思っていて。彼らが着たいと思うウエアを作ることを常に意識していたんです。それが、僕が作ったトライアスロンコミュニティとも自然にリンクし、今日この場に来ていただいている皆さんにもご興味を持っていただけて、そういった皆さんの顔を見ながらウエアを作ることがベースになりました」 PI TALK 「一緒に練習したり大会に出たりする時に、嬉しそうな顔をして喜んで着てくれているのをみるとすごく幸せな気分になります。アンバサダーもコミュニティもスタート時は別々だったのですが、気づけばその二つが本当にうまく調和していて、たくさんの気づきを与えてくれています」 シンプルなウエアこそ、その人のパーソナリティを引き出してくれる。だからこそ心がそれを求めて自然と身に纏い、それを着ることでその人が自転車に乗るという行為の中にオリジナリティと軸が生まれるような、魅力的な感覚をもたらしてくれる。 最後は前田さん。PI TRIのスイムコーチとして、メンバーを指導する存在だ。 「僕はマーマンキングというコードネームで一年前からこのコミュニティで活動させていただいています。3歳から競泳をやっていて、リオ五輪の選考会で引退しました。そこで、僕が受けてきた競泳のエリート教育を多くの方に経験していただきたいと思い、現在日本で唯一のプロスイムコーチとして活動させてもらっています」 PI TALK 「チーム専属コーチという形で携わっているのはPI TRIが初めてで、合宿やレース以外にも、飲み会や個別に会ったりとたくさん関わる機会があります。その中で、皆さんのパーソナリティを深く理解できているからこそ、練習頻度や時間を把握しながらその人に合った言葉の伝え方など、とても深い指導ができているのではないかと。 一つ例を挙げると、On Japanの駒田さんは昨年の佐渡から一度もスイム練習をしていない状態で宮古島入りされました。半年以上泳いでないという(笑)そして駒田さんはやはりスイムが全然進まない、と。僕は去年の佐渡前に週3くらいのペースでずっと駒田さんのスイムを見ていたので、駒田さんの泳ぎを鮮明に覚えていたんです。 ちなみに僕は人の顔や名前を覚えるのではなく、泳ぎでその人を覚えるようにしているので、その人のいい泳ぎを導き出すためにどうすればいいのか、というのがいつも引き出しとして持っています。なので、宮古島現地で駒田さんを指導する際に、レース当日にいい泳ぎに持っていくのは難しくありませんでした。ただ泳がせるだけでは水泳は伸びないですし、その人に合ったメニューや指導法というものが必ずあるんです。 僕がこれまで培ってきた水泳を上達させるための基本的なロジックをもとに、その人の泳ぎの個性を見出して指導する。どなたにもやっていることなのですが、PI TRIのメンバーに関しては関わりも愛情も深いので、今回の駒田さんのようなケースでも対応できました。駒田さんは過去に数回宮古島に出場されているそうなのですが、昨年よりもタイムが15分縮まったことが本当に嬉しかったですね」 「そして、皆さんにもっと寄り添うためにトライアスロンレースに出場し、東京マラソンも完走しました。自分自身も競泳競技を継続してやっているのですが、水泳の練習をあまりしていないものの、バイクに乗ったりランニングをすることで心肺機能が鍛えられ、キックを打ち続ける持久力もつき、とても良い相乗効果があると思っています。 あ、だからと言って、皆さんスイムはサボらないでくださいね(笑)なぜかというと、スイムは3種目の中でスキルが一番必要な種目なので、やれば伸びるということではないんです。とりあえずやろう、ではなく、泳ぎはロジカルに作れるもの。速くなるための理屈を学んでいただき、陸上で動きを確認し、水の中で習得する。それを僕は皆さんに伝えていきたくて、今回の宮古島で駒田さんが体現してくださったと思っています。コーチとしてこのコミュニティに関われることは学ぶことが多く、感謝していますね」 そして、最後に大西さん。北川さんのお話にもあったとおり、宮古島では苦しいながらも10年以上ぶりのロングのレースを見事に完走。彼にはどんな気づきがあったのか。 PI TALK 「僕は普段はランニングやトライアスロンの指導と、スポーツ関連の施設のディレクションをしています。大学時代にトライアスロンをやっていましたが、指導をする立場だったので近年はほとんどレースには出ていなかったのですが、パールイズミのアンバサダーになったことがきっかけで、レース復帰することに決めました。そこで、昨年の佐渡と今年の宮古島が久しぶりのレースでした。 佐渡Bに出場した際に思っていた以上に良い感覚だったので、宮古島ではいい記録が出せそうと思っていたのですが、ランニングで大潰れしてしまい、半分以上歩いてしまいました。バイクまでは目標タイムを上回る快調さだったので、残念でしたね。 ただ、僕も宮古島で気づいたことがあって。過去に野球をやっていたのですが、チームみんなで試合に勝ちに行く時って、みんなの一つ一つのプレーがゲームを左右するので、すごく一体感を感じるんです。ここでアウトを取ろう!とか、みんなで守り抜こう!とか。宮古島では自分のラップタイムだけを意識しながらレース展開をしていたのですが、後半どうしても辛くて心が折れそうになった時に、ふと意識が自分ではなくてチームに意識が変わった瞬間がありました。みんなも頑張って走ってるんだ、というような。自分の目標タイムに一喜一憂するのではなく、このチームメンバーみんなで頑張っているんだという気持ち。 自分のミッションが最優先だったところから、チームメイトの顔が頭に浮かんだことで全員無事に完走することが目標になった。いい意味で目標の軌道修正ができ、頭が切り替わった瞬間に、レースをやめるという選択肢が消えて歩いてでも絶対にゴールしようというシンプルな感覚になって。そういう感覚になったのが初めてで、体の底から力が湧いてくるということを経験できました。トライアスロンは個人競技であって、チーム競技だということ。懐かしい心強さに助けられ、それに本当に魅了されましたね。 9月に出る佐渡は、もっとメンバーとの一体感を感じながら、ただもう歩きたくはないので(笑)しっかり完走できるように頑張りたいと思っています。僕たちはこれからもこういった小さな気づきに意味付けをして、表現、変化していくことを発信していきたい。そして何よりも楽しんでそれをたくさんの人と共有したいと思っています。今日ここに来てくださった皆さんにまずは共感していただけるととても嬉しいと思っています」 PI TALK PI TALK こうしてトークショーは幕を閉じ、ご参加いただいた皆さんと美味しいおつまみとお酒を片手により深い会話を楽しんだ。 PIGLのプロジェクトの構想段階では、このような心地よい繋がりや時間が生まれることは、きっと予想もついていなかったに違いない。トライアスロンの楽しみ方はそれぞれだが、共感できる、共鳴できる部分で繋がれる。自立した大人たちが無邪気になれる瞬間がそこにあった。 これからもパールイズミはユーザーの皆さんに満足と驚きを届けていく。