the good life

ほどなくして、ランニング1km地点に田中選手がやってきた。バイク90kmを終えた後とは思えない軽快な走りだ。彼はランニングが一番の得意種目で、ランニングクラブでコーチを務めるほどの実力。ランラップで好タイムを狙い、たくさんの選手をパスするだろう。そんな期待と高揚感で大声援を送る。佐渡の半月前まで共に練習を積み重ねてきた、トレーニングパートナーでありながら半月前に骨折をしてしまい、出場できない北川さんの分も思いっきり走る!と心の中で強く思っていてくれていたそうだ。北川さんも田中選手の勇姿に多くのエネルギーをもらったに違いない。

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そして、Rタイプ、On Japanチームの青野選手がやってきた。明らかに4分/kmを切ったとんでもないペースでコース上に現れた。元箱根ランナーという輝かしい経歴を持ち、このレースのために一人ポイント練習を積んできた青野選手。怪我や故障を背負いながらもうまく自己コントロールし、今この瞬間に素晴らしいパフォーマンスを魅せている。前原さんが同じスピードで青野選手を追いかけ声援を送る。Onチームは全員足が速いのだろうか。いや、それよりも、駒田さん、鎌田さんから襷を受け継ぎ、順位を上げてゴールゲートに戻ってきてほしいと願う想いの強さだろう。素晴らしいチームワークである。

他の選手も見届け、選手権部門のトップ選手たちのゴールを見届けるべくゴールゲートに戻った応援組は、戸原選手の王者奪還の瞬間に立ち会えた。スイムで先行されていた山本良介選手をバイク90km地点でパスし、得意の安定したランニングで引き離し見事優勝。

そして、Bタイプの選手が続々とゴールしてくる。PEARL IZUMIのトライスーツを着用してくれているMAESTOROの山本選手は総合4位、PI TRIでMAESTOROにも所属している田中選手は総合9位、岩淵選手は総合11位とチームに素晴らしい結果をもたらしてくれた。この3人はサラリーマンのフルタイムワーカーで、トライアスロン関係の仕事は一切していない。仕事と競技の切り替えや自己管理がうまく、トレーニング中は集中し手を抜かずに高い質でこなしている。結果だけではなく、見えない努力も賞賛に値する。田中選手はランニング中「ネガティブな気持ちは一切捨て、後○km分先行する選手を抜くチャンスが残っている!と強い気持ちで走りきりました。その結果、一桁台の順位でゴールすることができた。やっぱりレースは楽しいですね!」と笑顔で語ってくれた。

初めてミドルディスタンスにチャレンジした棟選手も無事にゴールしてくれた。彼はトレイルランニングで足腰と心肺機能の強さは一級品だが、ランの序盤で太ももが痙攣してしまい、エイドで大休止をしてしまったそうだ。一度この症状が出ると、何時間も休まないと回復しない。彼の持ち前の走力を100%発揮できず悔しい結果に終わったそうだが「PI TRIの仲間と一緒にレースに出たことでトライアスロンがもっと好きになり、来年はパワーアップした状態で順位を狙いたい」と頼もしい言葉をくれた。

RタイプのOnチームは青野選手のごぼう抜きでなんと総合4位という素晴らしい結果だった。夢は3位、目標は4位と駒田さんがレース前に言っていたが、まさに予想通り、有言実行。昨年の総合5位から順位を上げてのフィニッシュに、みんな心からの拍手を送った。

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さて、残るはAタイプの選手。出場していた大西さんのトラッカーが止まっている。4月の宮古島ではランニングで思うように身体が動かず、悔しい思いをした。2回目のロングディスタンスとなるこのレースで同じことは繰り返すまいと、ランニングを強化し手応えも感じていた大西さん。しかし、レース前に発症した重度の腰痛。全力で走りきれないことは本人が一番わかっていたが、それでもいけるところまで勝負したいという思いでスタートしていた。スイムでレースを終えるはずだったが、その時の自分の身体と相談して大丈夫だと判断し、バイクコースへ。

レース中は自分の気持ちが身体の動きとリンクしてしまうので、落ち着いて慎重にレース展開をしていたそうだが、大きなダメージが残ってしまう前にリタイアを決断。トライアスロンは常に冷静な判断を求められる。怪我や故障を背負っているのは大西さんであって、他の選手でも周りの関係者でもない。英断した彼を仲間であたたかく迎え、その無事に安堵した。大西さんの表情は決して暗いものではなかった。もちろん悔しい気持ちで溢れているであろうことは仲間として感じ取れるが、それでもいけるところまではいった、というその事実が来年のレースへの意欲となっていて、その決意が滲み出ていた。

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そして、夕焼けが海を赤く染める頃、満面の笑みでゴールゲートに入ってきたのは巽さん。感情が溢れ、涙ぐんでいるようにも見えるが、やりきった笑顔で満ち溢れている。彼女は見事、目標であった総合入賞を果たした。スイムアップも満面の笑みで上がり、バイク中はライバルとのサイドバイサイドを繰り返し、得意のランではすれ違う女子選手、抜いた女子選手を常にチェックしながら自分の順位をモチベーションにゴールまで帰ってきた。素晴らしい精神力である。

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「総合入賞するには、去年より30分速いタイムでゴールしなければならず、それがプレッシャーでした。でも、バイクの後半で思いがけず仲間が応援してくれて、びっくりしたけど本当に力になった。PI TRIが結成されるまでは、一人で練習して一人でレースに参加していたから、みんなで練習したり作戦を練ったり、同じ目標に向かって切磋琢磨できる今の環境がすごく好きです。今回もチームのメンバーがいてくれたから、頑張れました!」ゴールした彼女の周りにはその勇姿を讃えるべく、たくさんの仲間で溢れていた。

長い旅を間もなく終えようと、達成感に満ち溢れた選手たちが次々とゴールゲート直前のランウェイに入ってくる。日が落ち、外はすっかり暗くなっているが、選手たちの放つエネルギーで活気に溢れている。

及川さん、廣瀬さん、下條さんが無事にゴールしてくれた。ゴール直後はみんな、それぞれに起こった新鮮な武勇伝を、リアリティ溢れる表現で語ってくれるから面白い。下條さんは自作の補給ボトルの中身が不味すぎて吐き気と戦い続けたこと、仲間からの応援で一時的に心身ともに回復し、年齢関係なく青春を感じられたこと。

廣瀬さんはバイクで熱中症になり辛かったところで、サプライズ応援があって本当に助けられたことや、目を真っ赤にしても気持ちだけで走り続けたランニングが本当に辛かったことなど。自然の中で思いっきりレースを楽しむという裏側にあったそれぞれの戦い。そしてそれを支え、共感する仲間。ゴールゲート周辺ではいたるところで同じシーンが繰り広げられ、汗と涙に混じった選手たちの表情が輝いている。我々は最後にゴールする仲間と一緒に、パールイズミのフラッグを持って全員でゴールゲートをくぐるというその瞬間を待っていた。

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そして、いよいよ最後の選手、椛島さん。カバちゃんの愛称でチームメンバーから愛される彼は、一見トライアスロンをしていそうに見えない穏やかな雰囲気の持ち主。だが、マイペースでも必ず完走する底力を持っていて、みんないつもその姿に感動させられる。去年も今年も佐渡のレースではチームの中で一番最後にゴールをしたが、ゆっくりでも一生懸命頑張った分、仲間全員とゴールできるという特権が待っているのである。

真っ暗なランコースを、リフレクターがついた襷を肩からかけたカバちゃんがゴール近くまで来ているという情報が入ると、メンバー全員すぐさま防寒着を脱ぎ捨てトライスーツ一枚になり、カバちゃんと同じ格好でゴールゲートをくぐる準備をする。そしていよいよゴールエリアに入ってきた彼に「おかえり!」「よく頑張ったね!」と声をかけ、肩を抱き合う。タイムや順位など関係のない、我らが仲間の誇らしい瞬間だ。
「ランで辛くなった時に制限時間まで余裕があったから歩くこともできた。でも、ゴールで仲間が待ってくれていると思うと少しでも早くそこに辿り着きたくて走り続けることができました」そう言って笑う彼の姿に、みんなの目尻が下がる。

レースのフィナーレには佐渡名物の花火が待っていた。昨年はみんなで宿で打ち上げをすべく早々に帰ってしまい、見逃した花火。制限時間に達すると、安室奈美恵さんのHEROとともに海から花火が上がりだす。メンバー全員、それぞれの想いを胸に無言でそれを見続けた。花火の光で照らされたメンバーの表情は、誰一人として笑顔ではない。目に涙を浮かべ、沸々と湧き上がる未来への情熱を、決意を秘めた表情だ。

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PI TRIで挑んだ2回目の佐渡トライアスロン。結果を出すために挑んだ仲間。主要メンバーが怪我や故障を抱えていた分、頑張ってくれた仲間、サポートに徹してくれた仲間。一人がみんなのために、みんなが一人のために身体を限界まで削り、心を燃やしたレースが終わった。

パールイズミが生み出すモノ(商品)をベースに、チームでいかに”人生において忘れられない瞬間を経験できるか”。また一つ、みんなの心に刻まれたこの体験をもとに、次のステップへと進んでいくことだろう。

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