キャリアスタートのきっかけ

前職は一般のアパレル会社で働いていたという内山さん。職場のビルの1Fがバイクショップだったことから、自転車に興味を持ち始めた。その頃はサイクルジャージのブランドの名前すら知らなかったが、バイクショップに訪れる人たちが着用しているウエアのパールイズミのロゴを頻繁に目にするようになり、ある日ウェブサイトを覗いてみる。マウンテンバイクで通勤したり、都内をツーリングしていたこともあり、自転車は好きだったが、それよりもブランドのウェブサイトに記載された「半年以上かけ、試行錯誤を繰り返しながら真摯にものづくりをしています」という一文に魅了され、もっと真剣にものづくりと向き合える世界で働いてみたいと考えたのがきっかけだった。 内山 暢亮 思い切って求人に応募した暁の面接では、当時の社長や上司からこれまでの自分の業務フローやこだわりはパールイズミにとっては「当たり前レベル」だと一蹴される場面もあった。面接は失敗に終わったと思っていたが、希望通り採用され、長い年月が経った今でも彼は初心を忘れることなく謙虚に業務に従事している。

企画開発の業務とは

一言で企画開発と言っても、素材の開発や研究、快適にライドをするために必要なアクセサリーの製作など、その業務は多岐に渡る。その中でも、ものづくりをするうえで機能として欠かせないのが、量産するために工場と社内スタッフの橋渡し役とも言える司令塔的存在だ。まずは、デザイナーやパタンナーからイラストやプリントのデザイン、パターンの型を期日通りに仕上げてもらい、工場への生産発注における必要なものを細やかに確認し、分類して工場に生産を依頼するが、全てが綺麗に整った状態でオーダーすることはなかなか難しい。 内山 暢亮 属人化された作業だからこそ、それぞれのペースやこだわりがある。全セクションを制作スケジュール通りに進行させるために、常に状況を判断しながらコミュニケーションを繰り返し、軌道修正することが重要だ。この役割を担う人が欠如していると、いくら素晴らしい技術を持った職人がいても期日通りに完成品は上がって来ず、売り場に並ぶことはない。

グローブスペシャリストとしてのこだわり

グローブにおけるデザイン以外の全てを進行するのも大きな業務の一つ。その綿密さは目を見張るものがある。実際にライドする時の使用感を重視し、体重がかかる部分にパッドを入れるべく、その位置や厚みの調整など細部に渡り計算され尽くしている。また、グローブはその人の持つ指の長さで付け心地が大きく変わる。オーダーメイドではないため、すべての人の手にジャストフィットするものを目指すことは難しい。だが、限りなくつけ心地の良いものを目指すべく、様々な工夫がされている。 内山 暢亮 一つの例として、素材に柔軟性を持たせることでフィット感を上げること。全体を伸縮性の高い素材にしてしまうのではなく、指の付け根のマチの一部分だけテンションが緩く伸縮するものを使うことで、指の長さの違いによる違和感を限りなく減らしているのだという。 他にも、長時間ライドの振動で手が痺れることを防ぐため、落車事故に遭った際に怪我をしないようにと、手のひら部分は一枚布で切り込みは入れず、立体感を実現している。冬物のグローブにおいては寒さを凌ぐことが重要な要素となるため、中綿を使用した二重構造になるが、なるべく内側に縫い目が出ないように改良を重ねているため、つけ心地は抜群だ。 内山 暢亮 小さなアクセサリーでさえも進化を続けているパールイズミ。19SSで手がけたグローブは、手のひら部分に使用する素材を新にした。この素材を採用するにあたり、一年ほど前からフィールドテストを繰り返し、耐久性を確認。実績のない素材を採用する場合はとにかく時間をかけて信頼性の高い素材であるかどうかを徹底的に試し、製品化へと繋げる。この新なチャレンジも、ユーザーからのフィードバックがきっかけだった。もともとパールイズミのグローブは圧倒的な耐久性を目指し人工皮革を使用していたが、握りが硬いという声があったのだ。それを受けて、これまでの強度を保ちながら、いかに柔らかさを出すかという課題を持って取り組んだ結果、過去の製品を超えるものが誕生したのである。 彼が最近の仕事で気に入っているのが、レーシンググローブ。柔らかい掌素材で、ハンドルが握りやすい。また、シンプルなデザイン感と適度なクッション性で汎用性の高いグローブだと言う。

仕事のやりがい

真摯なものづくりに魅了されてパールイズミに入社し、長い月日が経つが、毎回展示会に赴いては各ショップのバイヤーや営業担当の皆さんと会話することを大切にしている。その際に、良し悪し関係なくどのような評価であれ、何かしらのフィードバックをもらえることが最高に嬉しい。厳しい意見であればあるほど、それを真摯に受け止め、次回世に送り出す商品開発に生かす。そして、実際にライド中のパールイズミユーザーに会えると、開発したものを選んでくださっている喜びがこみ上げてくる。職人であるがゆえに選ばれるものを作りたい。これからもトライ&エラーを繰り返しながら進化を楽しみたいと語ってくれた。 内山 暢亮