DAY2:茅野から松本へ
45分後、僕らは道路にいた。近くのセブンイレブンで朝食におにぎりと菓子パンを買って食べ、出発。今日のルートは、かの有名な美しいビーナスラインを通り、なだらかな牧草地や雄大な景色を眺めながら霧ヶ峰、美ヶ原といった高地へと向かう旅だ。
茅野に降り注ぐ朝の金色の光がすべてを幻想的に映し出していた。木や山、道、すべてを写真に収めたい気持ちになった。けれどiPhoneではこの美しさは収められないだろうということはわかっていたので、スマホをポケットに入れて、ただその瞬間を目に焼き付けることにした。ほどなくして僕たちは森の中の道を上っていった。そこには素敵なB&Bや別荘、ゴルフコースが点在していて、「ベジタリアンインディアンレストラン」という英語の看板が掛けられた食堂もあった。
さらに上ると景色はがらっと変わった。木々がなくなり、背の低い草や低木、野花が咲いていた。高地。全くの別世界。視界が開け、何百メートルも下の眼下には茅野の街が見え、谷や白い頂がギザギザに切り立つ様が広がっていた。それは驚くべき変化で、僕が東京近郊で慣れ親しんできたうっそうとした森林風景とは全く対照的な光景だった。
次の約40kmは標高1,400mから2,000mの間の高地を緩やかにうねりながら進んだ。ウィンドブレーカーの出番だ。曲がり角に来るたびに絶景が広がり、「ビッグ・スカイ・カントリー」と呼ばれる故郷のモンタナを思い出した。
ここまで来ると、オートバイや自動車の方がはるかに多かった。レースっぽい仕様のものも多く、エンジンをうならせ加速しながら僕らの横を通り過ぎていった。オートバイは大体が6~12台の集団だった。10台ぐらいの全く同じルノー・クリオが追い越していったこともあった。ドムは、「あれはルノー・クリオ・ウィリアムズだよ」と興奮気味に教えてくれた。
不思議なことに、ほとんど最後まで他のサイクリストを見かけることはなかった。彼らはどこへ行ってしまったのだろう?僕らは日本有数のサイクリングロードにいるというのに、そこには僕らしかいないのだ。謎だった。
もし三峰茶屋がミシュランの星を獲得していないというのであれば、星をあげるべきだ。海抜1,700mのこの場所からは、どこの窓からも雄大な富士山、浅間山、北岳、御嶽山、荒船山が一望できる。僕らはグレープ味のマウンテンデューときのこ汁を飲んだ。山小屋の外にあるピクニックテーブルでそのきのこ汁を飲み干し、これまで飲んだ味噌汁で一番美味しいという結論に達した。甘ったるいエナジーバーやゼリーばかりを食べてきた後で、僕らの体は塩分を渇望していたのだ。
茶屋の外にあるテーブルでは、さまざまなドライフルーツが山積みで売られていた。オーナーがしきりに試食を勧めるので、甘いドライピーチやドライアップル、それにオーナーいわくキウイの仲間か何からしきものを試食してみた。それが何なのかはわからなかったが美味しかった。
僕たちは雄大なアルプス山脈を背景に巨大な屋外彫刻が立ち並ぶ美ヶ原高原美術館を通り過ぎた。白樺の森を抜け、ドラマチックなジグザグ道を上り切った。25km下には松本の街が待っていた。少なくとも脚にとってのハードワークはここまで。ひび割れた砂だらけのアスファルトをガタガタと音を立てながら疾走した。VISIONグローブのクッションパッドがその振動を和らげてくれた。町の端にあるセブンイレブンで休憩し、コーヒーと塩分たっぷりのスナックを口にした。
現実生活へ
僕たちは車や信号だらけのこの現実世界、現代社会に戻って来た。町の中心部を通り抜け、松本駅へとやって来た。Garminの表示は、走行距離109km、上り2,846m。僕たちは二人ともこの旅が終わって欲しくなかった。あまりにも楽しく、美しく、完璧な旅だった。だが僕たちには家で帰りを待つ家族がいる。仕事も。現実が待っている。バイクをバッグの中に仕舞い、東京行きの次の特急チケットを買った。
帰りの道中、VISIONウェアの新たな強みを発見した。汗が固まって結晶になっていたのに、全く臭わなかったのだ。混雑した電車に2時間乗るには大事なことだ。
東京駅に到着し、互いに別れを告げ、ドムは横浜へ、僕は世田谷へと向かった。たくさんの笑いや上り道、そして日本の最高の景色に包まれた素晴らしい週末を経て、僕らの友情はこれまで以上に深まった。
僕はもう次のアドベンチャーを夢見ている。