身体にフィットさせる難しさ

繊維素材を動く人間が着ると発生するしわ。風洞実験の観点から言えば、しわが出たら正確な数値が出ない。ものに沿ったカタチになっていないといけない。 また、一番しわを気にするのは、それを着る選手。ナショナルチームの選手を個々にフィッティングして、カタチにしていく時に、しわのフィット感については、要望が強いのだ。一般の人では、気付かないことも、選手はとても敏感に気付く。実験数値だけの問題ではなく、同時に「着心地」の問題でもあるということなのだ。 普通の服でもそうだが、しわが出るには理由がある。どこかの線を移動するなり、摘まむなり、足すなりして、パターンナーは、日頃やっていることを繰り返し行う。そして、パターンだけではなく、素材の伸縮性や収縮率もある。硬い素材使っていれば、当然しわも出やすくなる。そこは素材とパターンがいかに上手くマッチングするか、させられるかということなのだ。

アナログな作業を繰り返し仕上げていく

ナショナルチームやエアロダイナミクスなど、「表舞台」であるレースのキーワードが度々出てくる。最高のモノ作りをしているのだ。ただ、その裏では地道な作業が繰り返されている。仕上りは大丈夫か、作りに無理がないか、縫製工程は大丈夫か、そして、その確認の時短のためにもパターンナーが自ら「手縫い」で作っているサンプルウエア。 そこから様々な情報収集することができる。ただ、そのサンプル作りは、1枚や2枚ではない。もの凄い数を作っている。 風洞実験だけでも、素材単体を何回か行い、その後、上半身だけのミニュチュア版でも行っている。答えが見つかるまでやり続ける。そんな作業が選手を支えているのだろう。

アームホールの調整

苦労したポイントにアームホールを中心とした腕周りがある。わきの下、腕の角度などの収まり具合。アームホールから始まり、その後ろ(背面)に向けてのカタチが難しい。普通のアームホール位置より、後方へ拡げることで、そこからくる空気の流れと、動き易さを考慮しつつ、同時に収めるという難しい作りもクリアしている。 アームホールの仕上がりは空気抵抗にも影響してくる。 空気抵抗は、前面投影面積によるところが大きいため、その面積をより小さくする必要がある。わきの下も同じことで、しわが発生し、周辺のフィット性が悪ければ、前面投影面積は大きくなり、空気抵抗は増えてしまう。したがって、個人の体にしっかりと合ったものでなければならない。その点でも前述のアームホールの位置は重要となっていた。 風洞実験もそんなにカッコイイ話ではない。実験後、すぐ確認できることは少ない。時間をかけて出したデータも狙い通りになるとは限らない。イメージするものとデータが意図したところに収まらない。その場で切り貼りし、ちょっと縫ってみて、縫い目を疑似的にテープで作ってみたりと、現場での細かいアナログな作業が続く。極めて創意工夫が必要な泥臭い「レースの世界」かもしれない。

パタンナー鎌田のエピソード

「選手用に作ったものを、製品段階に落としていくときには、自分で着て試しています。通勤は自転車なので、着て帰ろうとなったのですが、とにかく、選手用サイズのため小さい上にワンピースのバックファスナーなので一人では着られないのです。何とか手伝ってもらって、帰路についたのですが、とにかく速くて、いつもより早く家に帰ることができました。本当にスイスイ進むので、やはり凄いなと思いました。私は、良いもの作っているんだなと。(笑)もちろん、家に着くと奥さんに手伝ってもらって脱ぎます。」

スピードセンサー®Ⅱに期待すること

デザイナー佐藤

「ウエアとして、凄いもの作った、というところもありますけど、ナショナルチームだから、スピードセンサー®Ⅱだからということはあまりなくて、国際舞台で選手が気持ち良く走れて、気持ち良く結果が出れば良いかなという感じですね。」

パタンナー鎌田

「ナショナルチームの選手に活躍してもらって、そこで使われている商品が、話題になれば広く知られるでしょう。それが、一般の競技者やお客様のところにも上手く伝わって、いろいろな多くの人に使って頂き、体感してもらいたいですね。」

今後の商品展開について

スピードセンサー®Ⅱは、すでにオーダーウエアエアスピードジャージに採用、展開が始まっている。ナショナルチームの選手が使用するウエアに近いものが手に入るということなのだ。そして、量産品においても、第一弾として、スピードビブパンツが2020年春夏シーズンから展開されている。 パールイズミの目指すウエアは、常に「着心地の良い」ウエアだ。このスピードセンサー®Ⅱを採用したアイテムもその特性、特徴を活かしつつ、あくまでも着心地にこだわる。いくら空気抵抗の値がデータ上、良くても、着心地が劣ってしまうことはあり得ないということだ。 今回の開発で気が付いたことがあると言う。「選手と話して良く分かったのは、着心地が良いと彼らのパフォーマンスが上がっている。なぜだろう、恐らく、心配事が一つ減ったのかもしれない。例えばもがいている時に、きついと思えば、もがき切れなかったりするかもしれない。心配事が無くなれば、走りに集中できるのかもしれない。」 単なるモノ作りではない、選手に寄り添った開発がきっと功を奏している。