肌着問屋からサイクルウェアブランドへ

第一話にもあるように、パールイズミのサイクルウェアづくりは、創業者である清水釿治の四男である弘裕が運良く手に入れたイタリア製ジャージとの出会いから始まった。その高品質なイタリア製ジャージを再現すべく、似たような生地を光沢感のある女性用の肌着から探し、当時ウール素材だったウェアを、ナイロン生地で作り、より高品質なサイクルウェアの生産を進めた。徐々にそのサイクルウェアの評判が広がり、サイクリングクラブや大学のユニフォームにも採用され、肌着問屋から本格的にサイクルウェアブランド、パールイズミへシフトした。


その後は、選手として実業団で走る弘裕の影響力もあり、パールイズミは自転車業界で広がりをみせ、1968年メキシコオリンピックでは、日本のナショナルチームのウェアにも採用された。これは国内のサイクリストの信頼を得た証でもあった。

多くのメダル獲得に貢献したエアロワンピース

1970年以降は、海外のスキーやテニスウェアメーカーのOEMも手がける中、1978年に国内の選手向けにエアロワンピースとエアロパンツを開発した。トリコット織りの2WAY伸縮の素材を使い、フィット感を高め、従来品にはない着やすさを実現した。試作品をトラック競技の選手に着用してもらったところ、なんと日本記録を樹立した。
現在でもトップサイクリストが使用するウェアの大切な機能である空気抵抗の軽減を実現した、より速く走るためのサイクルウェアの原型とも言える。
このエアロワンピースをベースにして、エアロシャツとエアロパンツの市販品も売り出し、トップ選手が使用する機能性を備えたウェアを一般ユーザーにも届けた。


1982年からエアロダイナミクスをさらに研究し、「コーティングエアロ」という当時最も空気抵抗を軽減させる特殊素材を使用したワンピースを開発した。日本はもちろんアメリカ合衆国もナショナルチームのウェアとしてパールイズミのコーティングエアロを採用し、1984年のロサンゼルスオリンピックではアメリカチームの9個のメダル獲得、日本の銅メダル獲得に大きく貢献した。

世界で初めて人口皮革のパッドを開発

サイクルウェアの良し悪しを判断するポイントの一つにパッドの快適性は欠かせない。現在はカッティングや素材の工夫により、サイクリストの快適性を確保する様々な高性能のパッドが存在するが、そんなパッドにイノベーションを起こしたのもパールイズミである。
1980年代、当時のパッドは天然皮革(シープ)でできているため、耐久性と生産性に課題があった。洗濯後は硬くなってしまうため、その度にほぐす必要があり、それによりパッドが切れたり、ボロボロになることが多々あった。生産に関しても1枚ずつ形が違うため、重ねて裁断することができず、1枚ずつ型紙をあて時間をかけて裁断していた。
そんなある日、テレビを見ていた清水弘裕(現会長)の目にあるCMが飛び込んできた。
”雨にぬれても硬くならない合皮コート!”
この宣伝文句を目にした瞬間に、課題であったパッドの素材に人工皮革を採用することを思いついた。さっそくあちらこちら探し、当時はパッドに使用するには硬すぎる人工皮革が多かった中、パッドに相性のよさそうな人工皮革「アマーラ」を見つけ、パッドに採用。


その後アマーラをグローブにも採用し、これが世界的に広まり、パールイズミのイノベーションをきっかけに、業界が天然皮革から人工皮革に変わっていった時代であった。

常にサラサラの着心地を実現

サイクルウェアにおいて、空気抵抗とあわせてサイクリストにとっての関心ごとが汗の処理。汗をかいてもべたつかずに快適に着続けられる、いわゆる吸汗・速乾機能が重要になってくる。
1980年代はまだコットンやナイロンが主流だったので、大量に汗をかく自転車というスポーツにおいて、汗の処理は大きな課題となっていた。特に高温多湿の日本の気候条件下では、ベトつきによる不快感や汗冷え等が起こりやすく汗を素早く吸い、乾かす性能が求められていた。
そこで1987年、吸汗・拡散・速乾機能に優れる画期的な素材として、ポリエステルを使用した「フィールドセンサー®」を東レと共同開発し、世界に先駆けでサイクルウェアに採用した。


これにより、大量の汗をかいても常にサラサラ、汗による不快なベトつき感が極めて少ない快適な着心地を可能にした。
今では吸汗・速乾はサイクルウェアのスタンダードとなっているが、当時のサイクルウェアの着心地をグッと引き上げたのが「フィールドセンサー®」であった。

さらなるエアロダイナミクスへ。平面から凹凸へ進化

これまで開発し、多くのメダル獲得に貢献した「コーティングエアロ」は表面が真っ平らな素材で、それが当時の空気抵抗を軽減するにはスタンダードであった。だが一方でゴルフ界では、ボールの表面に採用されているディンプル(凹凸)のほうが空気抵抗軽減に効果があると言われていたため、2004年のアテネオリンピックを視野に入れた生地開発に取り入れてみることにした。エアロ生地に3 mm程の正方形の凹凸を配した生地を作り、風洞実験を通して、従来の平面のエアロ生地との比較・検証を繰り返した結果、生地表面の凹凸が空気の流れをスムーズにさせることがわかった。
これにより空気抵抗軽減素材「スピードセンサー®」が生まれた。そしてこれを着用した日本ナショナルチーム男子(トラック競技)が銀メダルを獲得するという大躍進にも貢献した。

現在は、来るべき国際舞台に向けて「スピードセンサー®」の第二世代として、「スピードセンサー®Ⅱ」がリリースされている。こちらについては「新素材スピードセンサー®Ⅱ開発ヒストリー前編・後編」を読んでいただきたい。

パールイズミはその時代ごとに、サイクリストの課題や未来に向き合い、様々なソリューションを生み出してきた。サイクリストファーストな製品開発を通じて、サイクリストとの信頼関係を築いてきた70年。パールイズミはこれからもニーズや時代の変化を読みながら、高性能で快適なサイクルウェアの供給に務めていく。

パールイズミ70年の歩み #01 はこちら