今だからこそのアナログ回帰

-大西
さっそく栗村さんの新著「栗村修のいちばん身につく 最強ロードバイクトレーニング」読ませていただきました。今のサイクル業界の流れや視点とはちょっと違って、いい意味で古典的であり、普遍的で大切な部分を丁寧に伝えてくださっているように感じました。コロナ禍でイベントや大会がない今だからこそ、ホビーサイクリスト伝えるべき内容だと思い、突然インタビューを企画してお話伺いに来ました。

 

-栗村さん
今回の本は、イベントや大会も中止になり、緊急事態宣言時においては屋外でのトレーニングもままならない状況で、サイクリストの活動が止まってしまいましたが、本を書いてサイクリストに有益な情報を届けることはできるのではと思い書かせていただきました。
ただ、本の内容については正直喜んでもらえるか心配でした。ホビーサイクリストにもトレーニングや機材において最新、高性能、効率化、デジタル化が浸透している中、昭和のおじさん的な固い内容や、アナログ回帰な部分が多いので。

-大西
私もトレーニング指導に携わっていた経験があるので、手っ取り早く楽しみたい、結果が欲しい方にとっては、じれったく感じるような昭和のおじさん的なお話は、とても共感できる部分が多かったです。そこをスルーしてしまうと安全面でのリスクが高まったり、走力の伸び悩みにもつながりますよね。

 

効率化の落とし穴

-栗村さん
時代の変化もありますが、サイクリストも情報過多になっているように感じます。仕事や家庭とのバランスを取りながらいかに自転車を楽しむか?レベルアップするか?を考え、日々取り組んでいることは素晴らしいことなのですが、効率化や時短を追い求めるがあまり、多くの情報から自分にとってベストな情報が選択ができていなかったり、安易にトップ選手のトレーニングや機材と同じものを導入して、ソフト面、ハード面ともにオーバースペックになっているホビーサイクリストを多く見かけます。
僕自身、効率化や時短を考えることは好きですし、大切だと思っていますが、効率化の部分は自転車の取組み(主にレベルアップに費やす活動)全体の40%程度であって、残りの60%は普遍的な基礎の部分であると考えています。今はその40%の効率化の部分にホビーサイクリストの関心やメディアが伝える内容も偏ってしまっているように感じますね。

 

-大西
効率化でいうと、今はコロナ禍もあり、スマートトレーナーと、Zwiftなどのオンラインサービスを活用して、インドアトレーニングに取り組むサイクリストが増えていますがこの点についてはどう思いますか?

 

-栗村さん
まず、僕はZwiftはとても楽しいと感じていますし、好きであることを前提にお話しします(笑)
昨今のインドアトレーニングの成熟により、屋外で自転車に乗る時間が削られて、屋外で安全に乗るために必要なスキルへの意識が薄れていることを心配しています。
最近はトレーニングに関する情報も、どのような負荷でどのくらい走ればレベルアップできるというような、自分のエンジンを鍛える内容にフォーカスされているものが多いですね。
これは自転車界全体の課題でもあるのですが、安全に対する意識を高め、必要なスキルを身につけるための情報や時間はもっと積極的に取るべきですね。

 

スキルとフィジカルを高めるベーストレーニング

-大西
本の中でいう”乗るベーストレーニング”の部分ですね。私も大学でトライアスロンをはじめたころ、ジグザグ走行や8の字走行、ボトル拾いなどをやりました。最近自転車を始めた方で、この基礎のスキルを高める経験をしている方って意外と少ないかもしれませんね。最新のフィッティングサービスや機材へ投資している方は多いと思いますが。

 

-栗村さん
そうですね、もちろんインドアトレーニングや科学的トレーニングで、今注目されているFTPなどの数値を高めることも大切なのですが、そのような数値も走るために必要な要素の一部であって、数値の向上に固執しすぎて、安全に対する意識やスキルが薄れてしまうのは本末転倒ですね。
本の中にある”乗るベーストレーニング”はぜひ参考にしていただきたいです。

 

-大西
ベーストレーニングのお話でいうと、”乗らないベーストレーニング”についても本に書いてありましたね。神社の階段を一段飛ばしで駆け上がる話は今の時代には斬新でした(笑)
”乗らないベーストレーニング”を通じて、サイクリストになる前にアスリートになろうという点も非常に共感できました。

 

-栗村さん
基礎のフィジカルを鍛え、そこを土台として、自転車に乗るために必要な動きや筋力をつけていく大切さを選手時代の経験からも実感しています。
ホビーサイクリストは時間が限られていることもあり、とにかく自転車に乗ること、自転車に乗って負荷をかけて強くなることに取り組まれている方が多いと思いますが、まずはサイクリストになる前にアスリートになること!
神社の階段を駆け上がらなくてもいいのですが(笑)、ロードバイクの上では鍛えられない総合的なフィジカルをレベルアップさせてこそ、サイクリストとしてのレベルアップがあると思っていますし、結果的にそれが効率化にもつながると思います。
この”乗らないベーストレーニング”は、日常の移動や、階段や公園など身近な環境でも工夫すればできます。いくつかヒントになることを本にも書いて言いますのでぜひ参考にしていただきたいです。
私は、人が多く行き交う渋谷のスクランブル交差点でも、人の後ろについて、いかに集団の中で効率よく前にポジショニングするかをやったことがあります(笑)こういう視点はちょっとユニークですがとても大切だと思っています。

 

-大西
そうそう、今回の本の中で、あえて自転車のための時間をとらなくても、日常生活の中で自転車をうまく乗るための工夫をしましょうという提案やヒントがたくさん盛り込まれているなと感じました。

 

柔軟に工夫していくこと

-栗村さん
そうですね。その考え方は忙しいホビーサイクリストだからこそ持っていただきたいところです。
その点、大西さんはトライアスロンをやられていますが、トライアスリートは比較的、フィジカルの重要性を意識して、トレーニングを工夫して、複合的に取り組まれている方が多いと感じているのですがどうでしょう?

-大西
まずは3種目で成り立つスポーツをやっている方の気質として、楽しさや効果も含め、いくつか組み合わせてやることへのメリットを感じている方が多いと思います。
そして3種目あるからこその、仕事やプライベートもある中で”すべて完璧にやるのは無理だ”というポジティブな諦めが前提としてあるので、時間の使い方やトレーニングのチョイスも柔軟であったり、代替案を自分で考え工夫されている方が多いのだと思います。

 

-栗村さん
トライアスリートの方って3種目だから楽しいし、きつくないって言う方が多いですよね。僕には考えられないのですが(笑)

 

-大西
それはホントです(笑)
3種目あるから楽しく、大きなけがもなく続けていられると考えています。
その日の気分や環境、身体のコンディションに合わせてトレーニングを選ぶことができて、飽きずに続けられるし、1つの種目だと身体へのダメージが一定の部位に偏ってしまい、けがにつながることもあると思いますが、3種目あることでダメージも分散され、バランスよく鍛えることもできます。
3つの引き出しがあることはフィジカル面、メンタル面、モチベーション、すべてにおいてポジティブだと思っています。
サイクリストの方にも、時には気分転換に泳いで肩甲骨周りの柔軟性を高めたり、短時間でもランニングで心肺機能を強化したりと複合的に、そして楽しみながらフィジカルを鍛えていくのはおススメですね!

 

-栗村さん
それはいいですね!トライアスリートの柔軟に工夫する姿勢はサイクリストも取り入れていきたいですね。

 

大切なのは持続可能であること

-大西
とにかく私のようなプロではないスポーツ愛好家は”楽しくケガなく続けたもん勝ち”だと思っています。栗村さんも本の随所で続けること、持続可能な自転車との付き合い方について書かれていますよね。

 

-栗村さん
はい、持続可能なサイクルライフというのは今回の本のテーマでもあります。
昨今の健康ブームや、弱虫ペダルの人気などもあり、サイクルスポーツへの流入は増えていると思いますが、定着や継続についてはまだまだ課題があると思っています。
先ほどもお話ししましたが、私の選手時代に比べて今は自転車に関する様々な情報が溢れ、誰でも見聞きでき、情報の取捨選択が難しくなっています。機材もプロ選手が使うようなものがメディアで紹介され、高価な機材、高性能が正義のように刷り込まれている部分があります。さらにはSNSの盛り上がりも手伝って、背伸びをしすぎたサイクルライフを求め、結果的にバーンアウトしている方が多いように感じています。いわゆる行き過ぎ、やり過ぎです。
本を参考に、これからのトレーニング、機材のこと、選択する情報、一度この機会に立ち止まって、持続可能な選択は何か?を考えていただければ嬉しいですね。

 

-大西
栗村さんの長きにわたる自転車経験の中で、持続可能なサイクルライフの実現に今必要なこととしてチョイスされたのが今回の本に詰まっているのですね。栗村さんが、今のサイクリストの方に受け入れてもらえるか心配されていた、基礎の部分や普遍的な部分ですよね。最後にあらためて今回の本の活用方法など教えてください。

 

-栗村さん
はい、結果的にそこに行きつきました。
今回の本は考え方や取り組み方のヒントになることを中心に書いていて、あえて正解を明記していない部分もあります。
本を通じて得た視点や考え方をヒントに、ご自身のライフスタイルにうまく組み込めるように工夫して、ご自身の持続可能なサイクルライフを築き上げてほしいと思っています。

 

-大西
栗村さん、貴重なお話、ありがとうございました。
これからツールドフランスもはじまりますし、さらなるご活躍を楽しみにしております!

 

最後に(大西より)
このお話をきっかけに、自転車を安全に続けるめに必要なスキルやフィジカル、いわゆる普遍的な基礎の部分の重要性を改めて感じました。
誰もが自転車に関する情報、モノ、サービスにアクセスできる今の時代、最新の機材やサービスを使って、より効率的にレベルアップしていくことに注目が集まっているようにも思えますが、今だからこそ少し成長スピードを緩めて、これからの持続可能なサイクルライフのために、サイクリストとしての基礎の土台づくりに目を向けるタイミングかもしれません。

今回ご紹介した栗村さんの新著
栗村修のいちばん身につく 最強ロードバイクトレーニング