マトリックスパワータグの強さ


Jプロツアー第4戦、今シーズン初勝利を挙げたレオネル・キンテロ

翌日の第5戦では、序盤から抜け出した逃げグループから最終的に小林海とキンテロの二人に。キンテロと並びながらフィニッシュし、小林が4勝目

国内ロードレース事情はいささか複雑だ。2020年までは全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)の主催するシリーズ戦、Jプロツアーが国内ではトップリーグとされていたが、Jプロツアーを走っていた一部の地域密着型チームが独立する形で2021年にジャパンサイクルリーグ(JCL)という別のリーグを立ち上げたことにより、国内のトップリーグと言われるレースは二つに分化した。

その片方であるJプロツアーの第4&5戦が4月23日、24日、群馬県にある群馬サイクルスポーツセンターにて行われた。結果から言うと、マトリックスパワータグ(以下、マトリックス)の連勝。初日にはベネズエラ人のレオネル・キンテロ、二日目は小林海(マリノ)が他チームに圧倒的な差をつけてフィニッシュラインへと飛び込んだ。これでマトリックスは開幕戦から全戦全勝が続く。

安原昌弘監督率いるマトリックスは、以前から海外の選手を積極的に入れてチームの強化を行ってきた。それは、自身のチームの勝利のためだけでなく、レースを活性化させ、国内レースのレベルをもっと上げていきたいという安原監督の思いからだ。

ここ数年では、ツール・ド・フランスなどでも活躍実績があり、多くの国のチームを経験してきた超ベテランスペイン人選手、フランシスコ・マンセボがチームに加入したのが一番大きいニュースであった。

昨シーズンまでもマンセボらを中心としてマトリックスは多くの成績を残してきたが、それでも今シーズンの5戦全勝というのは少し異様にも思える。それほどに今、他のチームが太刀打ちできない状態なのだ。



パールイズミ製の黒と緑を貴重としたデザインのジャージを纏うマトリックスパワータグ

マトリックスの強さは、あらゆる国・チームカテゴリーでの経験を持つ選手たちがそれぞれ異なる目標・目的を掲げながらも全員がチームの勝利に最も重きを置いているところにあるように思う。

ここまでの5戦中4勝を挙げているマトリックスの小林海は、「うちのチームは執着心がすごいので。僕たちの中で誰でもいいから、絶対に勝たなければという思いが強いんです」と、チームの勝利に対して「執着」という言葉を使った。

近年、世界トップのカテゴリーであるワールドツアーこそチーム戦の趣が強いものの、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)など絶対強者の登場により、突如として始まる個人戦さながらのねじ伏せるような強さが、コントロールされ切ったレースを一転させ、面白くさせるスパイスとなることもある。

しかし、ポガチャルのようなモンスター級の強さを持っていない限り、やはりチームではアシストとしての仕事を任され、チームとして勝利を狙いに行くのが定石であり、まずはチームの仕事をこなせないことには、その場所に行くことも、居続けることも難しい。

スペイン語を自在に操る小林は、ヨーロッパを拠点に活動していたがコロナ禍により帰国。国内コンチネンタルチームであるマトリックスへと加入した。そして所属するスペイン語圏の選手たちと日本人との橋渡し役も担う。昨年はまだ国内独自のサーキットレースの連続に苦戦する様子もあったが、今年は積み上げた自脚の違い、ベースの高さを見せつける。それは、「もう一回ヨーロッパに行きたい」という目標が定まったからであった。

しかし決して国内レースに狙いを定めたトレーニングをしているわけではないと小林は話し、あくまでも本場のロードレースへアジャストさせる。さらには、国内のレースであろうと油断の一切がない。敵チームの選手を最後まで甘く見ることがないため、他チームに隙を与えないのだ。

 

国内レースの位置と価値


Jプロツアーの個人総合トップに与えられるリーダージャージもパールイズミが提供する「エアスピード ジャージ」

現在の国内レースの位置付けとして、このJプロツアーやJCLのシリーズ戦で年間総合優勝を獲ったからといって、世界から見れば海外トップチームに移籍できるような実績にはならないのが実情だろう。それならばツアー・オブ・ジャパン(TOJ)やジャパンカップなどのUCIレースや全日本選手権を勝った方が世界共通のUCIポイントも手に入り、機会に恵まれさえすればよっぽど判断材料の一つとなり得ることもある。

現状で国内レースから海外でプロになる道筋が十分に体系化されている訳ではないように思える。だが、そこでの戦いや勝利にも価値がある。また、当然国内レースで勝負に絡めなければ本場のプロへの道は遠い。

「最初から最後まで勝負に絡み続けて、勝ち続けてない人が、向こう(ヨーロッパ)に行って何するんだと僕は思ってます。なのでもう(シーズン通しての)ピーキングとかは考えてないですね。狙っているレースを勝てない可能性もありますけど、僕はもう最初から最後まで、いい状態で勝負し続けるっていうのが僕の今年の目標です」

小林はこう話す。

 

5月19日から4日間に短縮されたTOJが始まっている。ここにはJCLでやはり圧倒的な力を見せ、TOJ前回大会王者でもある増田成幸(宇都宮ブリッツェン)だけでなく、コロナにより今までは日本に来られなかった国内チーム所属の有力な海外選手たちも出場を予定している。

国内レースが分化してから2年。コロナ禍になってから3年目に突入する。モチベーションを保ち、目的を持ってトレーニングを積めた者とそうでない者とでは顕著に差が広がっているように思う。そして、その差は二つのリーグ戦よりもTOJのようなレースでより明確にあらわれるはずだ。

国内レースはまだまだ発展途上の段階。一方で、レースが統率され切っていないからこそ、ほんの僅かなチャンスが突然舞い込むことがあったりと面白い点も見える。

また、どこかのチームや選手にフォーカスしていくと、動く・動かないの意図や、そのレースでのチャレンジが見えてくることもある。選手間、チーム間でのレベル差がありながらも、国内レースでそれぞれの目的に向けて切磋琢磨していく選手たちの姿もぜひ見てみてほしい。