難攻不落の海外勢

5月19日から22日までの全4ステージにて行われた2022年のツアー・オブ・ジャパン(TOJ)。今年は昨年から1ステージ増え、信州飯田ステージからのスタートとなった。結果からすると、初日からネイサン・アール(チーム右京)がベンジャミン・ダイボール(チーム右京)と共に圧勝という言葉がふさわしいレース展開を見せた。ワールドチームの経験もあり、TOJでの実績も持つ彼ら二人は、レース前の下馬評としても圧倒的な優勝候補であった。さらに翌日の富士山ステージでは、アールはダイボールとともにワンツーの道のりを前日よりも長くして差を広げるのみだった。 TOJは毎年、個人総合優勝者を占うにあたって富士山ステージが占める割合が非常に大きい。コロナ前、最長で8ステージで開催されていた時でも富士山の後に挽回できるステージが少なく、富士山ステージでのタイム差がそのまま個人総合優勝争いに関わってくるパターンがほとんどであった。 ふじあざみラインのような激坂勝負では、他選手と競えるのは先頭を争う僅かな選手のみで、その他の選手はほぼ山岳タイムトライアル状態で自分との戦いとなる。今シーズンのJプロツアーで無双していたマトリックスパワータグの小林海(マリノ)もまた、序盤からマイペースの走法に切り替え、「富士山と戦っていた」と話す。アール、ダイボール、トマ・ルバ(キナンレーシングチーム)に続いて小林は4位で上り切った。あざみライン終盤では、前年総合優勝した国内きってのクライマーである増田成幸(宇都宮ブリッツェン)をも抜いた。 富士山ステージではしっかりと冷静に走り切った小林だったが、第1ステージでは敗北を喫している。今大会でマトリックスパワータグとしては小林をエースに据え、総合優勝を狙おうとした。今シーズンJプロツアーでしてきたように、自らも脚を使い、周りを蹴落としていくような強者の走り方が染み付いており、それを再現しようとした。しかしそれは自分よりも力のあるアールのような選手がいる場ではまるで通用しなかった。冷静さを欠いた第1ステージの結果を受け止め、「頭も体も含めて選手の強さなので」と小林は言った。 アップダウンが続く第3ステージの相模原でのレースは、大雨が降り注ぐ中、前の2ステージで総合優勝が遠のいた多くの選手たちがせめてものステージ優勝のために逃げに乗りたがった。レース終盤戦に近づき、ようやく決まった大人数の逃げグループの中で、岡篤志(EFエデュケーション・NIPPO デヴェロップメントチーム)が欧州組としてのプレッシャーを背負いながらスプリントで勝利を掴み取った。 一方で、総合ワンツーを擁するチーム右京は逃げ切りを容認し、集団をコントロールしてただ安全に走った。 最終、東京ステージではスプリント賞争いをしつつ、アールは最後にチームのスプリンターであるレイモンド・クレダーの御膳立てを完璧にこなしてから4日間最後のフィニッシュラインを切った。「簡単なステージは一つもなかった」とアールは話したが、4日間のレースで一切の隙を見せることなく総合優勝を決め、クレダー、ルバの3名が表彰台に乗った。4位には増田、5位に小林と続いた。 4ステージ中、3ステージをチーム右京の海外選手が取り、個人総合とチーム総合もチーム右京がさらった。善戦した面ももちろんあるが、日本人としては完全に苦杯を嘗める結果となった。 アールが強かったのは間違いなく事実だ。それでも世界的に見たらアールより強い選手だってごまんといるのも現実だ。世界の選手と戦う機会が奪われたコロナ禍が終焉に向かっている今、日本人選手の現在の立ち位置としては確実にアールらの下にある。チーム力を比較する以前に個としての力不足はどうしても否めない。翌週に行われたツール・ド・熊野でもアールは総合優勝を飾ってから帰国した。 ロードレースはトラック競技と異なり、東京オリンピックに向けて組織的に向上させようという動きは特になく、あくまで個人の努力によってなし得てきた面が大きい。海外選手が国内レースを走る機会もなければ、国内選手が海外にレースをしにいく機会もなかったこのコロナ禍の2年で生まれた世界とのギャップは決して小さくないように思える。  

全日本ロードへの展望

6月23日からは昨年と同じ広島中央森林公園にて、全日本選手権ロードレースが開催される。メンバー構成的にTOJには近いが、もちろん今回のTOJでの表彰台のメンバーを除いた日本人のみの戦いとなる。多くの選手にとっておそらくこれがシーズン前半の締めくくりとなり、国内レースともUCIレースともまた違ったレースとなるはずだ。しかも新城幸也(バーレーン ヴィクトリアス)の出走も決まり、また勢力図が大きく変わってくる。正直なところ、新城のようなワールドチーム所属選手がいるといないではその勝利の価値は変わってくるようにも思う。 ワールドツアーでその仕事ぶりが評価されるような圧倒的な力を持つ新城に対して、Jプロツアーで力を見せてきた小林を中心としたマトリックスパワータグはもちろん、直前までトラックのアジア選手権のためにインドへと遠征をしていたチームブリヂストンサイクリングも全員がエリート男子でのエントリーをしており、チーム力に期待したいところだ。JCLからは、増田やTOJで新人賞を取った宮崎泰史を中心とした宇都宮ブリッツェンの動き、そしてTOJで総合優勝を飾ったチームとして海外選手抜きでもチーム右京の力量が発揮されるかにも注目したい。 全日本の1週前のJプロツアーでも連勝した小林は「絶対受身になる気はない」と言い放ち、「僕はワンパンチで全員千切れるんで。そこは絶対に自信があります」とも言い切った。その言葉が試されるときがやってくる。 また、ここ最近では、ヒルクライムを中心としてトレーニングを行っているアマチュア選手たちがパワーなどの数値上だけでなくロードレースでもうまく適合を見せている面もある。それでもパワーだけで勝ち切ることが稀であるのがロードレースの難しいところであり、醍醐味でもある。 果たして日本一の座をかけて上半期を笑顔で締め括るのは一体誰になるだろうか。