ブランド設立の経緯

オリヴィエとキャスパーという2人のブランド創立者。2010年のブランド設立当時のこの2人の関係は創業前からのものだった。当時プロトライアスリートとして欧米で名を轟かせていたオリヴィエと、スポンサーシップ業務やメディア対応などマネジメントの全てを担っていたキャスパー。その後キャスパーはエリートビジネスパーソンとしての道に進み、オリヴィエはシューズにおける可能性を模索していた。

On Japan

数多くのブランドのシューズに足を入れるも、心から履きたいと思うシューズが見つからず、開発することを視野に入れ始めたオリヴィエは、2008年にチューリッヒ工科大学で研究をスタート。ランニングは上にジャンプする運動ではなく、前に推進力を生み出して進む運動にも関わらず、その推進力を得られるシューズが世の中にない。推進力を得るためにいかに着地の衝撃を吸収し、前進することを実現させるか。そのテクノロジーを考え、模索する日々が続いた。

その時すでに「クラウド」というキーワードがあったのかを尋ねてみると、「そんなものはないよ。ノークラウドだよ」と笑って答えるオリヴェイ氏。「他のブランドのテクノロジーは、すべてミッドソールに集約されている。でもOnは独自のテクノロジーをアウトソールで表現しているんだよ」当時その構想を聞いたキャスパーは、「そのコンセプトれあれば、もっと独自性を強調し、訴求したほうがいい。他のブランドとは違うやり方でいこう」と言った。

 

キャスパーの存在

誰もが知る大手コンサルティング企業でキャリアを積んでいたキャスパーは、シリアスにランニングをするということよりもスノーボードやサーフィン、MTBなどエクストリームなスポーツを好んでいた。

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「こういうスポーツはとにかく楽しいんだ。辛さや苦しみはそこには存在しない。ランニングは正直大嫌いだったよ。しかも、周りにはランニングを楽しんでいる人間がいなかったからね。でもそんな僕が、試作品のシューズに初めて足を入れた時、楽しいと思ったんだ。履いているとぽんぽん弾むようなレスポンスがあることに、思わず笑顔になったのを覚えているよ」

2人は言う。「僕たちのブランドはランニングに楽しさをもたらしたいというとても楽観的な思考がベースにある。苦しい、辛いといった疲れを感じている時に、シューズが少しでもサポートして手助けになる存在でありたい。他のブランドはランニングをストイックに捉えているけれど、僕たちは波や自然との繋がりそのものを楽しむサーフィンのように、笑顔が湧き出てくるものだと考えているんだ」

ランニング嫌いだったキャスパーが即時に笑顔になれたシューズ。ランニングのバックグラウンドが全くない彼のその実直な意見と態度は、オリヴィエとキャスパー2人が描く未来が合致した瞬間だったのかもしれない。

 

強固な絆で自走するコミュニティ

「僕たちはずっと、ランニング単体を楽しむというよりは、それをコミュニティで楽しみたいと考えていたんだよ」そう語る2人の周りには、今や数え切れないくらいのOnファンに囲まれた日々を過ごしている。どのようにしてそのコミュニティを創り上げたのだろうか。

「最初はもちろんOnを好きでない人と、そうではない人がいた。でも、Onを支持してくれる人たちが少しずつ彼らの友人にシェアしてくれるようになった。コミュニティ形成の方法をマーケティング観点で難しく考えるよりも、Onユーザーが別のOnを履いている人に声をかけるというふうに、同じ感性を持った人たちが楽しみを求めて自然と集まってくれた。

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特に、日本に関しては独自のアプローチを取っていると感じている。日本人は仕事にもランニングにもとても真剣に打ち込んでいるし、日本人独自の真面目な性質は、時に深刻な考えに陥ってしまう事もあるのではないだろうか。そういう人たちにとって、楽しいコミュニティがあるということが大切だし、Onfreindsというキーワードでその輪が広がっているよね。

Hiroki(日本法人代表:駒田氏)がまだブランドが小さい頃からSNSでたくさんの人と繋がり、それを継続していることでとても大きなうねりができていると感じているよ」

Onのコアバリュー

Onの本社はスイスのチューリッヒにある。もちろん精鋭たちの集まりではあるのだが、OnにCEOは存在しない。3人の創業者、CFO、COOが1名ずつ、その5人が1つのチームとして、5つの脳を最大限に使い、シナジーを起こしながら意思決定をしている。

前述したコミュニティにも関係するが、良い製品だけでは不十分、素晴らしいコミュニティだけでは不十分。Onという巨大な船の舵を取る船員たちのリーダーは、一体どのようなコミュニケーションを取っているのか。

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オリヴィエは言う。「僕たちのプロダクト開発はちょっとユニークなんだ。新しい製品を開発するときは、まず僕たちが欲しいと思うものを考える。市場調査やマーケットシェアなどデータが根拠なのではなく、単純に自分が顧客なら欲しいと思うものを開発して試す。その根底にはいつもランニングが楽しくなるということ、これがあるんだよ。例えば他ブランドは価格帯で商品をマッピングするという戦略を打ち出すことがあるが、Onの場合は1種類のみ。本当に欲しいものしか開発したくないからね」キャスパーにおいても「例えばクラウドは、Never not Onなんだ。これはいつでも履きたいシューズという意味で、自分たちが信じられない製品を作っても意味がない。だから、すべてのプロダクトを自身でテストをしているんだ」

こうしてOnの方針が決められていくわけだが、Onはグローバル全体で、セールスやカスタマーサービスの目標を設定しており、国別や個人の目標はない。日本法人のマネージャーである駒田氏が国内でコミュニティづくりに成功していれば、他国に共有する。とある人が成功しても他の人がミスをすれば、全体的な失敗と捉える。汎用性が高いことは横展開し、ミスも同様チーム全体で成功しているかどうかをもっとも重要視するのがOnのカルチャーだ。

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Onには”Be Different”  “Deliver Wow” “Good is Not Good Enough” “Start and Finish As a Team”という4つのコアバリューが存在する。Be Differentを例に上げると、商品開発において他社と違うもの、また自社の既存製品を超えるものを生み出すことは時として難しい。新製品開発において最も理想的なプランを描き、それを関係各所にプレゼンをする。

その時にオリヴィエやキャスパーが聞きたいレスポンスは「そんなのは実現不可能だよ」という言葉。なぜならそれは、逆を返せば今までにない画期的なものであることを象徴しているからだ。「そんなことをしたら原価が10倍になる!」と言われると、絶対に実現させたいと思う。そのためにチームで何をするのか。そこから開発がスタートするのだ。

オリヴィエは「先日日本の店舗を視察に行ったが、そこに置いてある商品たちは5年前に実現不可能という言葉を聞かされたものなんだ」と笑って語ってくれた。そういった姿勢一つをとっても、コアバリューが表現されている。

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オリヴィエとキャスパーが最後に日本のカスタマーにメッセージを送ってくれた。「Being active makes you happy. 動くことにもっと積極的になってほしい。動くことは楽しいし、とても心地よいことだから。僕たちは数値に捉われることなく、より感情に訴えかける。人の購買行動において、もっと素晴らしい感情を抱いてほしいと思うから。ランニングをしている人たちにもっと気楽に、もっと楽しく、と伝えたい。シリアスにならなくてもいいんだ。だって、もう十分に身体は一生懸命動いているから。だからこそ、心はリラックスして楽しんでほしい」

このOnからのメッセージどおり、これからもランニングを楽しむことを追求したプロダクトを提供し続けるために、彼らは独自の道を切り拓き、我々を楽しませてくれることだろう。

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